Seminar B/研究会B
Theoretical Linguistics in Practice/理論言語学実践
Spring 2025
Fri 5th
言語の変化と変異 Language Change and Variation:
Aなのかい、Bなのかい、どっちなんだい?
■研究会の目標:この研究会「理論言語学実践」では、学期ごとに言語学の様々な枠組みに触れ、対象を分析し、理論言語学における参加者の知識と分析力を高めることを目標とする。
■選抜課題:リンク先の課題を行い、回答を教員にメールすること(メールはオンライン・シラバスの連絡先情報を見てください)
■このセメスターの内容:2025年度の前期では、言語の変異と変化をテーマに活動を行う。変異というのは、聞きなれない言葉かもしれない。だが、この用語が指す概念はそんなに馴染みのないものではないはずで、具体例を聞くと「あ、それ、興味あるかも」と思ってくれる人も多いのではないかと思う。
例えば、日本語では、同じ意味内容ではあるが「彼は行きませんでしたね」とも「彼は行かなかったですね」とも言える。他にも、「起きられる?」という表現は「起きれる?」とも言える。英語の例を出すと、He helped John do his homework.という文はHe helped John to do his homework.とも言えるし、We won't answer the question that you raised.という文は、We won't answer the question you raised.とも言える。または、I submit myself to a judgment about which I can not but be anxiousという文は、I submit myself to a judgment which I can not but be anxious about. とも言える。このように、どこか何か微妙にニュアンスは違うものの、全体としては、同じ意味を表していると思われる異なる言い回し(選択肢)を言語学では変異(variant)と言う。
このような選択肢が競合するときに、人間はどちらを選ぶのだろうか。
学校や教育現場では、「Aしか使ってはいけない」のような「ルール」を習ったことがあるかもしれない(例:「ら抜き言葉は使ってはいけない」のように)。だが、人間は習ったルール通りに行動をするわけではない(例:使うなと言われても、みんな「ら抜き言葉」は使っている)。言語表現とは自然と口をついて出てしまうものだからだ。そして、みんなが使っていくと、いつの間にか、それが「普通」になる。
言語学者が興味を持つのは、習ったルールの方ではなく、人間がどういうふうに使っているのかという使用実態の方だ。この使用実態は、しかし、なかなかデリケートなものである。絶対にこうだ、というような強い一般化ができないからだ。同じ人間でも、時にはAを用いて、また別の時にはBを使うということもある以上、絶対的な断定はできないのである。だが、とはいえ、完全に無秩序か、というとそういうわけでもない。確率的な傾向というものが、なにか存在するに違いない。どんな要因が存在するときに、Aを使う(または、Aを避ける)傾向が強まるのか、それを探りたい。
そして、この変異の分析と密接に関係する問題が、歴史変化である。ある時代までは、Aが使われていたのに、ある一定期間、AとBが共存し、その後、Bが使われるようになる、というように、言語変化は言語変異の選択傾向の変化として捉えられるからだ。
そこで、この学期には、輪読と実践を織り交ぜながら、変異と変化の分析の研究の一端に触れていきたい。
■スケジュール:本年度は、この研究会が初めて組織される年になるので、学生の力や要望を踏まえ、多少大幅にスケジュールが変更される可能性があることを承知されたい。
Class 1: ガイダンス(中納言の登録)
4月11日(金)5限
-
活動1:コースガイダンス
-
活動2:自己紹介(各学生の興味の紹介)
-
活動3:中納言の登録
-
活動4:Google Scholarの使い方
-
アウトプットのための課題1:興味のある対象の発見
言語の変化、変異の事例として、自分が興味を持つ対象を複数見つけ、報告しなさい。
Google Scholarを使って、大まかな調査を添えなさい。 -
インプットのための課題1:輪読
尾谷 昌則・二枝 美津子(2011)『構文ネットワークと文法―認知文法論のアプローチ』東京:研究社.
Class 2: 構文文法における変異・変化研究① 基礎的理解を深める
4月18日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
活動2:コーパス検索体験
-
アウトプットのための課題2:コーパス検索体験
言語の変化、変異の事例として、自分が興味を持つ対象を複数見つけ、報告しなさい。
Google Scholarを使って、大まかな調査を添えなさい。 -
インプットのための課題2:輪読
指定論文を読む
Class 3: 構文文法における変異・変化研究② 論文
4月18日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
活動2:Google Scholarの使い方
-
アウトプットのための課題3:Google Scholar体験
自分が興味を持った現象に関係のあるテーマの論文をGoogle Scholarで検索し、文献リストを作る。 -
インプットのための課題3:輪読
指定論文を読む
Class 4: 生成文法における変異・変化研究① 基礎
4月18日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
アウトプットのための課題4:先行研究の読解
自分が作成した文献リストにおいて優先順位が高い論文を読み始める。 -
インプットのための課題4:輪読
指定論文を読む
Class 5: 生成文法における変異・変化研究② 論文
4月18日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
活動2:Rの使い方の基礎を学ぶ
-
アウトプットのための課題5:先行研究の読解
自分が作成した文献リストにおいて優先順位が高い論文を読み始める。 -
インプットのための課題5:ビデオ
リンク先のビデオを視聴し、質問を考える。
Class 6: 方法論1(統計学① 重回帰分析)
4月25日(金)5限
-
活動1:重回帰分析の仕組みについての理解を深める
-
活動2:重回帰分析をRで実装してみる
-
アウトプットのための課題6:先行研究の読解
自分が作成した文献リストにおいて優先順位が高い論文を読み始める。 -
インプットのための課題6:統計分析体験
リンク先にあるテストデータをダウンロードして、分析を実行し、わかったことをまとめなさい。
Class 7: 方法論2(統計学② 一般化線形モデル)
4月25日(金)5限
-
活動1:一般化線形モデルの仕組みについての理解を深める
-
活動2:一般化線形モデルをRで実装してみる
-
アウトプットのための課題7:先行研究の読解
自分が取ったデータに対して、一般化線形モデルで分析を行いなさい。 -
インプットのための課題7:輪読
指定論文を読む。(※学生と相談の上、決定)
Class 8: 論文講読①
4月25日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
活動2:進行中のプロジェクトに関する相談
-
アウトプットのための課題8:先行研究の読解/データ分析
自分が作成した文献リストにおいて優先順位が高い論文を読み、データ分析についても進める。 -
インプットのための課題8:輪読
指定論文を読む。(※学生と相談の上、決定)
Class 9: 論文講読②
4月25日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
活動2:進行中のプロジェクトに関する相談
-
アウトプットのための課題9:先行研究の読解/データ分析
自分が作成した文献リストにおいて優先順位が高い論文を読み、データ分析についても進める。 -
インプットのための課題9:輪読
指定論文を読む。(※学生と相談の上、決定)
Class 10: 論文講読③
4月25日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
活動2:進行中のプロジェクトに関する相談
-
アウトプットのための課題10:先行研究の読解/データ分析
自分が作成した文献リストにおいて優先順位が高い論文を読み、データ分析についても進める。 -
インプットのための課題10:輪読
指定論文を読む。(※学生と相談の上、決定)
Class 11: 論文講読④
4月25日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
活動2:進行中のプロジェクトに関する相談
-
アウトプットのための課題11:先行研究の読解/データ分析
自分が作成した文献リストにおいて優先順位が高い論文を読み、データ分析についても進める。 -
インプットのための課題11:輪読
指定論文を読む。(※学生と相談の上、決定)
Class 12: 論文講読⑤
4月25日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
活動2:進行中のプロジェクトに関する相談
-
アウトプットのための課題12:先行研究の読解/データ分析
自分が作成した文献リストにおいて優先順位が高い論文を読み、データ分析についても進める。 -
インプットのための課題12:輪読
指定論文を読む。(※学生と相談の上、決定)
Class 13: 論文講読⑥
4月25日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
活動2:進行中のプロジェクトに関する相談
-
アウトプットのための課題13:発表に向けての準備
今学期の成果をまとめ、発表する(一人10分を予定)。 -
インプットのための課題13:輪読
指定論文を読む。(※学生と相談の上、決定)
Class 14: 論文講読⑦/成果発表①
4月25日(金)5限
-
活動1:輪読課題に関するディスカッション
-
活動2:成果の発表
-
アウトプットのための課題14:発表に向けての準備
今学期の成果をまとめ、発表する(一人10分を予定)。
Class 15: 成果発表②/まとめ
4月25日(金)5限
-
活動1:成果の発表
-
活動2:今学期のまとめ
-
アウトプットのための課題15:レポート作成
発表した内容をもとに、レポートを作成し、期日までに提出する。